総力特集 RIZIN15(8)

魔裟斗選手だ。忘れられない名試合がある。2007年10月3日、K-1 WORLD MAX 2007 世界一決定トーナメント決勝戦では、自ら指名した前年度王者ブアカーオ・ポー.プラムックと準々決勝で対戦。1Rに右ストレートでダウンを奪い、判定勝ちをおさめた。

K-1 MAX 07' 準々決勝 魔娑斗 vs プアカーオ・ポー.プラムック

この時魔裟斗選手を見て、2つの事を感じた。日本人がこんなに強くなれるのかというのが一点。そしてもう一点は魔裟斗選手は後の事は考えていないなというのが一点だ。格闘家や武術家には大きく分けて二つのタイプがいる。生涯のある一点において最強になりたいというタイプと人生の終わりまで武を追求したいタイプだ。魔裟斗選手はとびっきりの前者だと思う。2007年のブワカーオとの戦いはそれほど常軌を逸していた。凄まじいキレの技を全く衰える事なく出し続ける瞬発力と持久力という相反する要素の両立。おそらくこの試合に向けて魔裟斗選手は自分が壊れる寸前まで、自分を追い込んだはずだ。伊豆で走りこみを決行し、1日で3ラウンドの試合を3回戦う体力をつけた。1ラウンドの試合は800m走に匹敵するので800m走を最低9本、3分切れるようにしたという事だと推察出来る。それと平行して4分間で200の手数を出すトレーニングをしたという。まさに凄絶そのものだ。しかし、こういうトレーニングは一瞬の強さを得られても明らかに選手生命を縮める。本来、格闘技と言うよりは武術のトレーニングは鍛えると同時に休めるものなのだ。そして長い時間をかけて強くなっていくのが武術なのだが、それが武術と格闘技の最大の違いなのかもしれない。

私の採点では

1R   魔裟斗10-ブアカーオ8

2R   魔裟斗10-ブアカーオ10

3R   魔裟斗10-ブアカーオ9

完璧な魔裟斗の勝利だ。

しかし、この話には裏がある。K-1サイドは魔裟斗に有利なようにルール変更して、首相撲からの膝蹴りを(正確に言えば首相撲を)禁止したのだ。そのためにブワカーオは攻めのリズムが悪くなっている。しかも、ムエタイの必殺技ヒジも禁止だ。事実上この試合はハンディキャップマッチだった。魔裟斗の強さが本物だっただけにこのような卑怯な事はしないで欲しかった。金を持っているから、主催者だから、公平な勝負にしないで、日本人に勝たせて、盛り上げて、興行として成功させる。実に醜い。正直なところ首相撲ありだったら、私はブアカーオが勝ったと思う。私は日本人は世界に類を見ない正直な民族だと思っているが、最近はそうでもないようだ。

2009年12月31日、魔裟斗はさいたまスーパーアリーナにて行われたDynamite!! 〜勇気のチカラ2009〜でアンディ・サワーとK-1特別ルール(3分5R延長1R、サワーが希望するシュートボクシングのロングスパッツ着用可)で自身の引退試合を行った。4Rにカウンターの右フックでダウンを奪うもサワーも盛り返し、最終5Rまでもつれ込んだが3-0の判定勝ちを収め、現役を引退した。

ここで魔裟斗とブアカーオを比較したい。

魔裟斗が世界レベルで強かったのは2000年11月1日、K-1 WORLD MAXの前身に当たる興行『K-1 J・MAX』で、ムラッド・サリ(フランス)とISKAオリエンタル世界ウェルター級タイトルマッチを行い、2Rに左フックでKO勝ちしてから2009年の引退まで。2000年〜2009年、年齢で言えば21才〜30才。

一方ブアカーオは2002年12月14日、ルンピニー・スタジアムで行われた「TOYOTAタイランド・ムエマラソン 140ポンド・トーナメント」で優勝してから、今なお伝説級の強さを保っている。2002年〜2019年、年齢で言えば20才〜37才。このように長く現役を続けられるというのも、ムエタイファイターに共通している。もちろんタイが貧しくてあんまり稼ぐ手段がないというのもあるだろうが、格闘技としてのムエタイの完成度が選手寿命を長くしているとしか私には考えられない。

格闘家としてブアカーオとどちら強いか。どちらがすごいかと言えば失礼ながら圧倒的にブアカーオである。しかし、あのワンマッチに命を燃やし尽くすような執念を持って挑んだ魔裟斗の事を考えると今でも、目頭が熱くなる。男には(女にも)どうしても、負けられない時がある。その負けられない時、ワンマッチを魔裟斗は制したのだ。浮かぶ感情といえば、尊敬、憧れ、共感だろうか。だから、魔裟斗はタレントになった今でも、自信を持って幸せに生きていると思う。

でも、もし格闘家としてまだ燃え残しがあるなら、大雅を那須川天心と戦える選手に育ててやってほしい。自分のピークを定めて、命をつぎ込むトレーニングをする。それしか大雅には道はない。その道は険しいだろうが、最高に幸せな道だと思う。

「大雅よ。天心を倒せ。努力の凡人が天才を倒す所を見せてくれ。」

 

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